「あの雲」みたいな短編小説 「パチンコは、優しいのよ。」
2021.05.21
「あの雲」みたいな短編小説

パチンコは、優しいのよ。

 

 

ウルトラマンのスーツのシワ。親父が持って帰ってくるエロい週刊誌。おふくろの色気も何もないズロース。しょーもない夫婦喧嘩。サンタさんからだと親がいいはるプレゼント。学校の担任の先生の舌打ち。職員室でのいがみ合い。可愛い同級生の鼻くそ。友達がこっそりウンコに行ったこと。

子どもながらに、目をつむることを覚えた。目をつむることの境目が、大人と子どもの境目だ。

 

そしていま、娘たちにも大目に見てもらっている。ハリボテの父親であることもバレている。もうそれでいい。オヤジなんて、シワシワだらけのウルトラマンである。

長女は、東京で立派に社会人をしている。出張の折に、ときどきデートをする。その度に、カマをかけてくる。
「お父さん、お母さんに嘘ばかりついているでしょ!?」と。
答えには、決まり文句がある。
「真実は、劇薬だ。嘘は、常備薬だ。夫婦は、知らないことが多い方がうまくいく」
「どんな嘘をついているの?」
そんな問いに誘導されて日頃のウソをカミングアウトすることになる。
会社には、少しばかりの借金があること。出張の半分は、行かなくてもいい出張であること。意外と女性にはモテること。血糖値が高くてお医者さんから注意を受けていること。

そうして翌日の朝には「聞かなかったことにしてあげる♡」とLINEにメッセージが入る。我が娘は、ちゃんと大人と子どもの境目がわかっている。

 

「お父さんは、ギャンブルしているの?」
「競馬や競輪はしないけど、ときどきパチンコくらいはな。」
「パチンコっておもしろいの?」
「パチンコって落ち着くのよ」
「落ち着く? あんなに五月蝿いのに?」
「ひとりになれるやろ? そこがいいのよ。パチンコは、優しいのよ。お前には、まだわからんと思うけど」
「ふーん、優しいんだ?」

30代中盤で、我が娘の髪を風呂上がりにドライヤーで乾かしてあげることくらいのことが、ホントの幸せなんじゃないかと確信したはずなのに・・・アラ還にもなると、自分の隠毛をドライヤーで乾かしながら、幸せは何処へ行ったのだ!? と叫びたくなる。

 

しかし、こうやってときどきなのではあるけれど、成人した娘の優しさに幸せを感じている。全部に、目をつむってくれる娘に、心から感謝する。

これは、嘘ではない。

 

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文/中村修治

企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。

http://nakamurasyuji.com/

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