HIGUCHI GROUP創業者、樋口謹之助の言葉や逸話を、時代を越えて様々な社員が独自の視点で解説する企画「謹之助の語り部」の第9弾です。それではどうぞ。
10年後 君はどのようになっているか?
今回の語り部 : 総務部 / 渡辺 良人
私は謹之助前会長の薫陶を受け、この会社に育ててもらいました。前会長の想いや考え方を少しでもご理解いただけたらと思い、私が前会長から直接かけていただいた言葉をお伝えします。
「渡辺、10年後、君はどのようになっているか?」
前会長と話をする時「時間軸」と「因子」いう言葉が良く出ていました。
こうなりたい、こんなことをしたいと漫然と思い描くだけでは何も実現出来ません。
実現する為には、何をいつまでにどこまでやるのかを明確にして、その為に必要となる因子とそれを阻害する因子とに分け、実行していく為に必要な資源「人」「物」「金」「情報」を確保する必要があります。このような考え方は、今我々が取り組んでいるビジョンやミッション、バリューにも通ずるものだと、改めて気付かされます。
とは言え、当時の私は「10年後は間違いなく10歳年をとってます」とお茶を濁して前会長を失望させたものです。
「渡辺、人や会社を信用するポイントは何だと思うか?」
当時、私は金融の仕事をしていたので与信についてはある程度理解していました。
「会社の規模や各利益率、現在の手持ち受注量ではないかと思います」と自信を持って答えたのですが、前会長からは
「過去の数値だけを見ていると判断を間違う。今がどうなのか?適正価格で受注しているのか?ダンピングをしていないのか?その業種の未来は明るいのか?儲かるための仕組みがあるのか?を見極めないとだめだ」
と言われました。
私は業歴も長く老舗と言われる会社を信用し、失敗をしてしまった苦い経験があります。その時、前会長はその会社が倒産する事を予見されていました。前会長に「なぜ倒産すると分かったのですか?」と尋ねたところ冒頭の質問をされました。
机上で判断するのではなく、現場で自分の目で確かめ自分の物差しを持って判断する事の大切さを、その苦い経験(今となっては大変貴重な経験)を通して教えて頂きました。
「農作物が良く育たないのだが、土を調べてくれ!」
前会長の自宅敷地には畑があり、マイ農機具で土を耕していました。
「ちょっと手伝っていけ」と言われたら断るわけもいかず、革靴を履いたまま手伝いをしていました。帰りには駄賃として今朝取れた烏骨鶏の卵を手渡しで頂きました。卵は一個ずつ小分けで新聞紙に包まれ、収穫日が細かく書かれていたことを思い出します。
「土の三大要素は窒素・リン酸・カリウムだがそのバランスが大事なのだ。やり過ぎてもいけないし足らないのはもっといけない。最初からやらないのは論外だ。」
これは人の成長にも同じ事が言えます。時として助言は必要ですが、褒める事・叱る事・考えさせる事のバランスが大事です。謹之助前会長は私が大学で習った知識を伝えると必ず「へぇ~すごかなぁ~、そいでどげんなっとか?」とまずは感心してくれました。褒められると嬉しいもので次々に色んなことを話しました。おそらく前会長にとっては、特別新しい知識でもなかったはずです。今考えてみると若い社員を気持ちよく乗せて、やる気を出させる為の行動だったのだと気付かされます。
私が思う謹之助前会長は、
一人一人と対等に接してくれる人。
人を気持ちよく乗せるのがうまい人。
お金そのものよりも儲ける仕組みを作るのが好きな人。
そして飽くなき探求心と好奇心を持ち続けた人だったと思います。
以上が私が見てきた謹之助前会長の姿と、その言葉から得た学びです。
ここから前会長の人柄や想いを少しでも分かってもらえたら幸いです。