週イチ「たまりば」No.56 自腹を斬ろう!!
2022.03.17
週イチたまりば

文/中村修治

企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。

 

自腹を斬ろう!!

ワタシは知っている。会社のお金で、何でもかんでも処理しようとするサラリーマンにろくな奴はいない。他人のお金でやってることは、残念ながら身につかない。

マーケティングという分野に属している者に限って言っても・・・自分の金でモノを買わない。自分の金で本を買わない。自分の金でヒトに逢わない。そんな、ないないづくしの奴は、うんこたれの中のくそったれである。自分で金を出さないマーケッターに、「消費」や「消費者」の話しをしてもらいたくない。

「消費」とは、「自腹を斬る」ことである。自腹を斬る覚悟がなくては「消費者道」は、見えてこない。買って損したという悔しさ。想像以上に良かった喜び。自らの財布を開くリスクなしに、その実感は得られない。

買い与えられたモノと用意された環境で、人間は、大した成長なんてできない。成長する企業には、各人が自腹を切って集めたモノや知恵が集積するものだ。会社の接待で聞いた話しが流布するより、各人が自腹で挑んだイベントから得られた情報が喧伝された方が、役に立つ。会社の課題になっている書籍の情報より、各人が自腹で買った本の感想の方が、自分のことばになる確率が高い。言い換えると、給料の使い方の上手な社員が多いところが、成長企業になるということかもしれない。

芸術の世界では・・・人間として、より純粋な思いを育てている者の手になるものは、余計な知識や思惑が心の中に入ってしまった人間の創るモノとは、質的に全く違ってくるという批評を良く読むことがある。商ビジネスの世界でも同じだと思う。

「純粋な消費=身銭を斬る」ができない奴が、他人を動かす売れるマーケティングの実践ができるはずがない。純粋な消費ができるセンスこそ、マーケティングに携わるものに必須のセンスだ。買い物を、理屈でこねくりまわしても、あんまり実のある成果はない。

お金儲けや、モノの消費や、ヒトとの出会いに、余計な知識や思惑が入ってくると、消費の王道は見えにくくなる。自分の欲しいものを、自分で稼いだお金で買って、それを創ってくれたヒトに還元する。「自分の金で勉強した」純粋なお客様が、市場を健全にするのだと信じたい。

悲しいけれど自転車操業である。自分でこがねーとイケねーから、今日も一生懸命こいでいる。自分でこがねーと自分がどこまで行けるのかがわからねーからである。

お金は、天下のまわりものである。華僑の間には「人の財布に貯めるお金」という意識があるらしい。人と食事をした時に自分の財布からおごるお金のこと。「人におごったお金は消えるのではなく、人の財布に移動するだけ」というのが華僑の感覚。「割り勘」という概念がない。人の財布にお金を入れておけば自分のお金がない時には躊躇なくおごってもらうことができる。

衣食足りて礼節を知るという。礼節を知るためには、足るを知らなくてはいけない。足るを知るためには、お金を使ってみるのがいい。自腹で奢ってみるのが早い。

お金がなくても大人にはなれるけど、
お金は使っていないと大人になる道は見えてこない。

 

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