謹之助の語り部 episode16
2022.04.30
謹之助の語り部

HIGUCHI GROUP創業者、樋口謹之助の言葉や逸話を、時代を越えて様々な社員が独自の視点で解説する企画「謹之助の語り部」の第16弾です。それではどうぞ。

 

数値だけでは分からない“お客様”

 

今回の語り部 : 取締役  / 福田 俊彦

 

会長講和で使われていた資料の中に以下の文章があります。

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◆ 情報の共有ではなく価値観の共有が企業情報化のカギとなる

企業がITを導入するにあたって重要なことは、

≪情報を共有する≫のではなく、≪価値観を共有する≫ことである。

ITは、あくまでも企業ビジョンを達成するための一つの手段でしかない。

システムが活きるかどうかは、企業に文化があるか、共通の価値観があるかにかかっている。モラルのインフラ、マインドのインフラが議論されないままに、ITや経営手法だけを導入しても無駄である。

いかに豊富な情報をデータベースに蓄積しても、それを効果的に活用しなければ、まさに宝の持ち腐れである。データベースから引き出した情報を各自が勝手に解釈していたら、皆がばらばらの方向に行動し、企業の推進力にはつながらないだろう。

一つの共通の価値観の下で仕事をしている集団の上に良い情報が与えられれば、これが活きて、大きな力になる。そのために必要なのは、個人が常に仕事の進むべき方向をしっかりと把握することであり、自分のミッションをはっきりと理解することである。

その方向を示す旗振り役が経営トップである。まず企業文化があり、そこにトップが方針を出して初めて、企業の方向性が見えてくる。

例えば、日本を代表するある日用品メーカーは現場主義を徹底している会社として有名であるが、震源地はあくまでもトップである。世の中の動きに対する見方なり考え方を、常に現場に注入し続けている。単に下任せでは、企業の方向性を見出すことはできないだろう。

◆ 組織と情報の仕組みを合わせる

社員が価値観を共有したうえで、企業の推進力を生み出すための情報システムづくりで重要なことは、組織の仕組み、すなわち仕事の仕組みと、情報システムの仕組みが重なり合うことである。企業の現状を眺めると、この2つの仕組みが噛み合っていないケースが多く見受けられる。ITが先にありきで仕事の仕組みを作る傾向があるが、これでは意味がない。情報システムの議論をするときは必ず、組織や仕事の仕方の議論を一緒にすべきである。

変化とともに生きるということが、我々の仕事に対する取り組みであるから、どちらかに合わせようとするのではなく、市場の変化に合わせて、仕事の仕組み、情報システムの仕組みを常に変えていく、というスタンスを忘れてはいけない。

 

◆ 社内と社外の情報を統合する

企業の価値観の共有を深め、環境の変化に対応できる企業経営を目指すには、社内の情報だけでなく、社外の情報をもっと取り込むべきだろう。

いま、サプライチェーンが盛んに注目を浴びている。生産現場から末端の販売までの情報の流れをスムーズにするという発想であるが、これは、メーカー側の見方であって、情報の流れとしては半分で終わっている。

商品を顧客へ届けることによって、顧客がそれをどう使い、どう評価したか、あるいは市場がどう変化したかという情報は、サプライチェーンの流れの中にはない。顧客からの情報、すなわちデマンドチェーンを構築して、企業の外から内へ向って豊かな情報を流す仕組みを作ることが重要ではないだろうか。

サプライチェーンとデマンドチェーンを一つの輪につなげることで、生産と顧客の間を情報がスパイラルに往来し、市場との価値観の共有を広げていく仕組みを作ることが必要だろう。

情報の統合化に際して、垂直統合、水平統合などと言われているが、本質的には縦でも横でもない。情報を連続したループの中でとらえ、市場全体の価値観をいかに一つに統合するか。そこで初めて、情報の価値が企業経営に生きてくるのである。

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以上の様に、我社においても約20年以上前から市場・お客様の変化に対応する事を言われ続けていますが、いまだに変化を捉える事もその変化に対応する事も不十分なような気がします。

ひぐちグループの事業方針の中に

・お客様の欲求を理解する

・お客様の変化に気づく

・お客様の(顕在)欲求にこたえる

・お客様の(潜在)欲求に提案する

と表明されていて、お客様との接点から学び取り提案する事になっています。

 

謹之助会長は

「お客様をよく観察しなさい」

「お客様に聞きなさい」

「お客様は何と言われた?」

とよく質問され、

お客様を視ていないと返答できないような質問をどんどん投げかけて来られました。

報告を受ける場合も、数値の意味・原因・背景を、お客様の行動やお客様との会話の中から分析した内容をよく求められていました。

ゴルフ場の営業を始めた頃は、コンピュータも良く使いこなせず、お客様の来場頻度や来場時間帯などの顧客分析を、社員総がかりでお客様が帰られた後や雨の日でお客様が少ない日に、一ヶ月以上掛けて手作業の人海戦術で行ったことを覚えています。

そして報告した時に尋ねられたのは

「お客様は大体わかったけれども、ゴルフというスポーツのどういう価値をお客様は楽しみにされているのか?プレイを楽しみにされているのか?コミュニケーションを求めて来られているのか?コンペの賞品を楽しみに来られているのならどんな賞品が好まれるのか?」

と常にお客様が喜ばれそうなことを、いろいろと想像し、創造し

“お客様の欲しいものはこれではないですか?”

と提案し続ける事を実践で教えて頂きました。
数値だけで推測して報告すると

「お客様に聞いてみたのか?」

「我々は学者じゃないのだから、知ったかぶりしないで聞いてみなさい」

と、知ったつもりになって傲慢になる事(変化に気付かなかったり、変化への準備をしないなど、対応しない事)を戒められていたのを思い出します。

HIGUCHI GROUPは当時から数十店舗を構えてお客様を迎えていました。各店舗のお客様の分析を各店舗や業種別で行う事で、お客様の潜在欲求を探りあて、全店共通で行えるような提案、お客様に喜んで頂けそうなことを提案し続けて、社会に貢献しようと考えられていたのだと思います。

お客様に関する情報に関しては貪欲に収集されて、その上で意思決定するというスタンスはずっと変わらなかったように思います。

私も後輩たちと一緒に、“お客様”と“お客様の変化”に関心を持ち、様々な質問をしながら傲慢にならず真摯に受け止め続ける様にしなければならないと改めて思いました。

 

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