催眠術は馬鹿にはかかりません。
「催眠術は馬鹿にはかかりません」と言って催眠術師は、術を始める。常套句である。そうすると「自分は馬鹿ではない」と思う人たちが、面白いように術にかかる。そういう知性的な自意識によって催眠術にかかる方向への無意識なドライブは加速される。
「頭が良いね」と褒められ続けてきた人たちは、自分のアイデンティティを「頭の良さ」にかける。「騙されないぞ」と頑なに構えている。それは、言い換えると「自分に騙されやすい」ということでもある。「自分に騙されている」と表現したほうが正しいのかもしれない。
そういう人たちほど、社会から与えられる価値に無垢である。だから、催眠術にかかる。結局、マスコミで働くような知的エリート層ほど、大衆的なのである。コロナ禍なんて「ワタシは騙されないぞ」という人たちの騒ぎである。褒めたり、貶めたり、自分に騙されやすい人たちばかりの騒ぎである。
しょーもないエリート意識が、しょーもない大衆の騒ぎをつくる。日本全体が「催眠術は馬鹿にはかかりません」と言われて、ドップリと催眠術にかかっている。
「自分に騙されやすいエリート」であるよりも、催眠術にもかからない馬鹿であり続けたいと切に思う。
文/中村修治
企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。