飛行機は壊れながら飛んでいる。
「不安定からの発想」佐貫亦男著という本がある。そこには、ライト兄弟は、何故、飛行機を飛ばすことに成功したのかが書かれている。その当時の多くの科学者は、人間のつくる完全なものを空中で安定させることに躍起になっていた。しかし、その固定概念がそもそもの誤り。空中という不安定な場所に、安定を求めること自体が間違いだと気付いたから、ライト兄弟は飛行に成功したというのだ。
人間が操縦席に乗るなら、その不安定を、自らの手で操縦することで空を飛べばいいじゃないか。完全を求める科学者たちの発想を覆すパラダイムシフトがそこにはあると。「安定」を手放すことによって、未来への飛行が可能になったということだ。
友人でもあるコンサルタントの高橋広嗣(フィンチジャパン)のお話を思い出した。大学時代に、宇宙工学に携わった経歴の持ち主で、「破壊力学」が専門だったという。
スペースシャトルが、空中爆発をした理由。日本に、飛行機を作る会社がない理由。それらを高橋氏は、ひとことで・・・「飛行機は、壊れながら飛んでいるから」と表現してくれた。
それら空中を飛ぶ人工物に使われる部材は、軽いものの方が燃費はよくなるわけだから・・・飛行の度に「き裂が入ること=破壊されること」を前提にしないと、技術は前へ進まない。そうじゃないと、飛行機もスペースシャトルも、空へは飛び立てないと教えてくれた。「き裂が入ること=破壊されること」を前提とした、その破壊のマネージメント能力こそが、人間が空を飛ぶためのキーファクターなのだ。
「事業」も、「組織」も、「家族」も、「友情」も・・・完全なんてない。壊れない=完全を求めたら、反対に、なにもできなくなる。き裂も入る。失敗もする。そのことを前提とした靱性ある体質と関係づくりこそが、未来に飛び立てる条件なのだ。
大空へ旅立つためには、はなっから「安定や完全」を捨てる勇気を持つ。「不安定」のコントロールこそ、人間の役割だ。「き裂=破壊」のマネージメントこそ、人間の叡智だ。
視聴者からのクレームが恐くて言葉狩りをする放送業界。父兄からの突っ込みが恐くて何も出来ない教育界。裏返して言うと「き裂」に、ここぞとばかりに塩を塗り込む多くの父兄や視聴者。
そういう状況をつくってしまっている本人なら、ぜひ、大空を見上げてもらいたい。「飛行機は、壊れながら飛んでいる。なのに、あんなに悠々と飛んでいる。」人間は、傷つきやすく、破壊されやすいから、夢や期待をカタチにすることができたのだ。
文/中村修治
企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。