失敗の宝 ~幻のPASTA&PIZZA編~第2話 「踏査」
2021.06.10
失敗の宝

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前回までのあらすじ
時代は1980年代中頃、ひぐちグループは、生パスタ用の製麺機の輸入販売を検討していた。少しずつ盛り上がりを見せつつあったイタリアン市場に将来性を感じたPJメンバーは、生パスタ用の製麺機の輸入販売を取りやめ、得意分野である飲食店で勝負する事を決める。

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PASTA&PIZZA専門店の出店に向け、まずは“本物の”PASTAとPIZZAを知る必要があった。その為の本場イタリア調査である。

イタリア渡航にあたり当時は直行便の本数も少なかった為、アンカレッジとオランダのアムステルダムを経由しての入国となった。成田から拠点であるミラノに入るまで20時間以上の長旅である。しかしPJチームの3人はまだ若く、体の疲れよりもこれから始まる調査に心が躍った。

3人は到着早々調査に入る。文字通りイタリアを縦断しながら、ミラノからローマ、ナポリと都度拠点を変え、有名無名問わず数多くの店に赴き、本場のPASTAとPIZZAを中心に食べ歩いた。移動は車や電車の陸路だけでなく、時には空路も用いて南へ北へ。毎日毎日調査を繰り返していった。

半島が南北に延び、山岳地帯で区切られたイタリアは、その土地その土地でそれぞれ趣が大きく異なる。特に北部と南部においては、気候も人種も文化も違う。そして当然食文化にもその違いは色濃く表れていた。

イタリアを代表する大都市ミラノや王都トリノ、水の都ヴェネツィア、花の都フィレンツェ等を擁するのが北部地方である。北部地方には比較的に寒冷な土地があり酪農なども行われていた。その為、バターや生クリームなどの乳製品を豊富に使った濃厚な味付けの料理に特徴がある。パスタソースもクリーム系が多くを占める。

 

一方、イタリアの首都ローマ以南にあたる、イタリア第三の都市ナポリ、シチリア島のカターニアやパレルモに代表されるのが南部地方である。

南部地方はトマトやオリーブオイル、魚介類を使った料理に特徴がある。現在の日本で一般的にイタリア料理と言われて真っ先にイメージされるのは、この南部地方の料理の事であろう。暖かく乾いた土地で採れる良質なオリーブと季節ごとの野菜、三方の海からは様々な海の幸が手に入る。

味付けは北部に比べ比較的さっぱりしているところが特徴的で、パスタはマカロニやスパゲッティといった乾麺を使用。魚介類の旨味を活かしたシンプルな味付けを行っているところ多かった。

 

PJメンバーの3人は、調査に行く先々でこれまで見た事が無い料理、経験した事が無い味に数多く出会った。パスタ一つをとってもその種類は様々である。麺だけでも十数種類ある。PJメンバーの中には、有名洋食店出身者もいたが、その者でさえ初めて目にする料理ばかりであった。

それほど本場のイタリア料理は多様性に富み、その土地その土地で様々な表情を見せた。結局、約1か月に及んだ調査でも、その全容を把握する事は出来ず、翌年2回目の調査に赴く事になる。

 

第3話「帰国」へ続く

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