失敗の宝 ~幻のPASTA&PIZZA編~第3話 「帰国」
2021.06.24
失敗の宝

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前回までのあらすじ
専門店出店を目的とした、PASTA&PIZZAの研究。本場のイタリアを訪れた飲食新業態開発PJメンバー3名は各地を回り本場のイタリア料理を調査した。しかし多様性に富み、行く先々で様々な姿を見せるイタリア料理の研究は難航した。結局、約1か月に及んだ調査でもその全容を把握する事は叶わず、メンバーは帰国の途に就く。

 

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1度目の調査を終え帰国したPJメンバーは早速試作品作りに取り掛かった。場所は当時赤迫電停傍にあった「お手軽割烹ひぐち赤迫店」の地下厨房である。

余談だが、「お手軽割烹ひぐち赤迫店」は長崎出身のかの有名なミュージシャンがアルバイトをしていたお店である。アルバイトをしていたとされる時期を考えると、PJメンバーが日夜PASTAの試作品作りに取り組んでいた時期と重なる。仮にその有名ミュージシャンもまかない等で試作品の味見に参加していたとしても不思議ではない。なんともロマンを感じる話である。

※当時のひぐち赤迫店外観

 

話を戻す。メンバー達は記録していた膨大な調査資料と自ら体感した“舌の記憶”を頼りに来る日も来る日も調査で体感した“本場イタリア”の味の再現を試みた。

製麺機を使った生パスタ麺の研究から始まり、ソースの試作も優に100を超えた。しかしながら、どうしてもあの時体感した“本場のイタリア”の味とは何かが違って感じられた。

これは考えてみればこれは当然の事であった。日本とイタリアでは、気温も湿度も違う、使われる食材がたとえ同じ品種だったとしても、育った土や海が違えば、そこで得られた栄養が違った。そしてそもそも水が違う。水の硬度が大きく違うのだ。日本は降った雨の多くが河川にすぐに流れ込む。結果、地中のミネラルが含まれる時間が短い為、ミネラル分が少ない軟水となる。対してイタリアの特に北部地方は、アルプス山脈の麓に位置し、ミネラル分を多く含んだ硬水が使われていた。

そう言った無視できない違いがある中、メンバー達は遠く離れた日本の地下厨房で、少しでも“本場のイタリア”の味を再現しようと、これでもかこれでもかと研究を続ける日々を送っていた。

※ひぐち赤迫店厨房の様子

 

そんな研究を続ける傍ら、出店準備にも取り掛かり始めていた。物件探しである。出店候補地は東京。当初から目星をつけていた。イタリアンが将来的には認知が進み大衆化される確信はあったものの、当時はまだ物珍しい料理の一つに過ぎなかった。今のように情報にあふれ、簡単にアクセスできる時代ではない。出店場所は、情報に対して敏感で新しいものに興味を持つ、若いお客様が数多く集まる場所である必要があった。それが東京を選んだ理由である。

東京の中でも人口が多く出来るだけ若い世代が昼夜を問わず集まる場所を中心に物件探しを始めた。当然そういった場所は一様に家賃が高い。中には目が飛び出るほどの家賃の物件もあった。根気強く物件探しを続けると、何とかなりそうな物件もいくつか見つけることが出来た。物件探しに一定の目途が立ったころ、試作品作りにもずいぶんと進捗が見られるようになって来た。まだ確信が持てるほどでは無いにしろ、かなり本場の味に近づいてきた実感があった。

そう言った状況下で2度目の調査の話が出てきた。試作品作りで得られた手応えを確信に変えるチャンスである。また前年行えなかった実際の出店に向けたより深い調査を行う事も考えていた。PJメンバーは1年振り2度目のイタリア調査に向かった。

 

第4話「翻弄」に続く

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