週イチ「たまりば」No.96 不確かな一生だからこそ。
2023.06.15
週イチたまりば

文/中村修治

企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。

 

不確かな一生だからこそ。

経済学者J.K.ガルブレイス著『不確実性の時代』がベストセラーになったのは、1970年代後半であるから、かれこれ50年である。

1987年8月から18年以上にわたって連邦準備制度理事会(FRB)の議長として、アメリカ経済の舵をとりつづけてきたグリーンスパン氏は、ガルブレイスの予見に対して、金融市場の予測能力を高め、過去のような金融恐慌が起こらないシステムを創ろうとした。

しかし、2008年の後半、その甲斐もなく、世界で金融市場は揺れた。「確実」を目指した所に、「不確実」が起こったものだから、全世界がパニックになった。「確実性」が増え安定することが、逆に「不確実性」へのリスクを増大させたことを実感したのがリーマンショックだったわけである。

何でも予測できると賢い人たちは言う。だが、確実性が増えれば増えるほど、不確実性のコストが増えリスクも増大する。「確実」の想定が決まりごとになるほど、社会はその半面のコストとリスクを背負い、弱体化していく。

そうなら、最初から、「確実」なんて「無い」という、『無確実』への理解を強くした方が、強い社会になる近道は、見えてくる。必要なのは、「確実」を前提とした「不確実」ではなく、 どげんもこげんも『無確実』であるという発想だ。

私たちは、暮らしの中で、既に気づいている。どんなに努力をして、確実を目指しても、自分の意図に反して、コミュニケーションが失敗してしまうことを・・・。
「確実なコミュニケーションなど存在しない」のだ。それは、「確実なビジネスなど存在しない」と言うのとイコールだ。社会には、決定的な解がない。解答と呼ばれるものの不確かさを知り、それに付き合い続けた結果が現在である。

明日、生きているかどうかもわからない『無確実』な一生。地震も、コロナも、100年に1度か?50年に1度か?その不確かさに付き合い続ける覚悟さえあれば、自ずと明るい道は開けてくる気がしている。

 

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