週イチ「たまりば」No.99 “空気”は読むのではなく、創るもの。
2023.07.06
週イチたまりば

文/中村修治

企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。

 

“空気”は読むのではなく、創るもの。

 

思想家・山本七平は「『空気』の研究」のなかで「驚いたことに、『文藝春秋』昭和五十年八月号の『戦艦大和』でも、『全般の空気よりして、当時も今日も(大和の)特攻出撃は当然と思う』という発言が出てくる。この文章を読んでみると、大和の出撃を無謀とする人びとにはすべて、それを無謀と断ずるに至る細かいデータ、すなわち明確の根拠がある。だが一方、当然とする方の主張はそういったデータ乃至根拠は全くなく、その正当性の根拠は専ら『空気』なのである。最終的決定を下し、『そうせざるを得なくしている』力をもっているのは一に『空気』であって、それ以外にない。これは非常に興味深い事実である。」と書いている。

 

良い企業には、必ず良い社風がある。
素敵な経営者は、決まって会社の空気を創るのがうまい。
ひとつの戦略の決定を、強い個人が推し進めるのではなく、「その場の空気が決めた」ようにする。良いも悪いも、社員全員を共犯にすることができるかどうかが、経営者に必須の能力だと思うわけである。

 

その場に居るヒトの動きを視覚で捉え、その場のざわざわしたヒトの心の動きを聴覚で察し、目の前に出された酒のいつもと違う味に気づく。全身にくっつく「その場の空気」に触れた五感からの情報の集約と編集があってこその絶対感覚である。

 

世間の空気が読めない大臣が居座る内閣は解散することになる。楽しい宴会をぶちこわす間の悪い挨拶をする社長の行く末は怪しい。空気の読めない広告代理店の自慢話は、プレゼン会場の空気を凍らせる。芸のないタレントが支配するローカル局の空気はしょぼい。この世は、いたたまれない空気に包まれている。

 

その場しのぎの「空気を読む」は、ただの世渡り能力である。
「空気を読め」なんて忖度が未来を明るくしたことなどない。

 

「空気」を創るのは、
思いこみの後ろに臨在する、
変わらぬ何かしらの強い力であると信じている。

 

週イチたまりばバックナンバーはこちら

一覧へ