週イチ「たまりば」No.37 途中が「旅」なのだよ。
2021.11.03
週イチたまりば

 

途中が「旅」なのだよ。

宮脇俊三さんの『時刻表2万キロ』は、大学生の時の一人旅のバイブルだった。旅のお供は、カセットテープ式の重いウォークマン。サザンオールスターズの「勝手にシンドバット」を聞きながら車窓の向こうをまんじりと眺めていた。あの頃は、居眠りができなかったなぁ・・・。

旅の本質は「独りで違う時間を過ごす経験」である。目的地に着くまでの無為な時間の中に純粋に身を委ねる。その愚行に寛容になれる大人になったいま・・・また独り旅がしたいなぁと、心の底から思う。

全く縁のない土地の二度と見ることはないだろう風景を無為にやり過ごしながら、何度も訪れる「俺っていったい何してんだろう?という不安」を打ち消していく、そういうどうしようもない時間が堪らない。

肩書も、実績も、何も通じない。自分の知らない、自分を知らない人たちと関わりをもちにいく。その中に身を置いてみる。自分の過去が役に立たない。そのときに、ホントの自分が、また立ち上がってくる。自分と向き合うとは、ひとりになることではない。ひとりで自分の過去を洗い出すことではない。逆である。全く逆である。

「旅」とは、途中なのだよ。
どこまで行っても途中なのだよ。

途中の自分には、何もない。
笑っちゃうくらいどうしようもない。
だから途中のちいさな風景ばかりに敏感になるのである。

 

 

文/中村修治

企画会社ペーパーカンパニーの代表取締役社長。PR会社キナックスホールディングスの取締役会長。福岡大学非常勤講師。滋賀県出身。Good不動産やJR博多シティのネーミングなども手掛けた戦略プランナー。西日本新聞「qBiz」やitMedia「BLOGOS」のコラムニスト。フェイスブックのフォロワー数は、9000人越え。

http://nakamurasyuji.com/

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