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今月のメッセージ

今月のメッセージ

Monthly Message

ひぐちグループ 代表取締役社長

樋口 益次郎

寄道小径2022年4月

『好奇心と冒険心』

 

よく私の母親が言っていた。

 

「 小さい頃から、あんたは本当に鉄砲玉で、行先も告げず朝から家を出て、
陽が沈む夕食の頃まで帰ってこなかった。 」

 

昭和の頃は、今と違ってある意味治安も良かったし、家が商売をしているせいか、
子供にかまっていられなかった。とは言え親としては心配の絶えない子だったのであろう。

やっと自転車に乗れるか、乗れないかという小学校低学年の頃であろうか。
今はなかなか見かけることもなくなった、助走をつけて乗る自転車の乗り方。
正式名称は知らないが、左足にペダルをかけ、右足で地面を2・3回蹴って、走り始めてから
右足を回して漕ぎ始める“ツーツー乗り?”さえまだ出来ず、両立スタンドを立てた状態から、
漕ぎ出しに勢いよく体を前に出して走り出していた頃である。
もちろんその頃の家の事情は、自分の自転車なんて買ってもらえるわけもなく、『満互芽のもやし屋』
にあった荷台のデカい、黒塗りの業務用自転車が、唯一自分の自由になるものであった。

 

年に数回連れて行ってもらう、浜ノ町のデパートの屋上。
飛行機などの遊具がある他、タンクがスケルトンになったオレンジ色の噴水式ジュース自動販売機があった。
その当時流行っていた“ワタナベのジュースの素!”ではないが、その噴水式ジュース自販機は、
当時としては画期的なもので、子供にとっては眩いばかりの魅惑のオレンジ色を放っている様に見えた。
自転車もまともに乗れない頃に、「あのオレンジ色に輝く冷たいジュース」をただただ飲みたくて、
業務用自転車で浜口町の自宅から浜ノ町のデパートめがけて漕ぎ出していったのでした。
もちろん親には内緒です。

順調に?進む私の前に立ちはだかったのが県庁坂。
平地しか走ったことのない私にはとんでもない巨大な壁に見えたのでしょう。
愕然としながらも、それを乗り越えさせたのが、あの魅惑のオレンジジュースであったことを覚えています。

 

「時代が違いますよ!」って言ってしまうとそれまでなのでしょうが、
若い時に、悶々と抱く『好奇心』に従い無謀にも挑戦し、大失敗をやらかして
しまう。これは若い時だから許される、ある種の特権である。

そういった『冒険心』を、どこかにポツンと忘れていないだろうか⁉

 

一時期、ドラッカー作といわれていた詩です。(実は違っていたのですが…)

『95歳ある老人の詩』

もう一度人生をやり直せるなら・・・・

今度はもっと間違いをおかそう。

もっとくつろぎ、

もっと肩の力を抜こう。

絶対にこんなに完璧な人間ではなく、

もっと、もっと、愚かな人間になろう。

この世には、実際、それほど真剣に思い煩うことなど殆ど無いのだ。

もっと馬鹿になろう、

もっと騒ごう、

もっと不衛生に生きよう。

もっとたくさんのチャンスをつかみ、

行ったことのない場所にももっともっとたくさん行こう。

もっとたくさんアイスクリームを食べ、

お酒を飲み、

豆はそんなに食べないでおこう。

もっと本当の厄介ごとを抱え込み、

頭の中だけで想像する厄介ごとは出来る限り減らそう。

もう一度最初から人生をやり直せるなら、

春はもっと早くから裸足になり、

秋はもっと遅くまで裸足でいよう。

もっとたくさん冒険をし、

もっとたくさんのメリーゴーランドに乗り、

もっとたくさんの夕日を見て、

もっとたくさんの子供たちと真剣に遊ぼう。

もう一度人生をやり直せるなら・・・・

だが、見ての通り、私はもうやり直しがきかない。

私たちは人生をあまりに厳格に考えすぎていないか?

自分に規制をひき、他人の目を気にして、

起こりもしない未来を思い煩ってはクヨクヨ悩んだり、

構えたり、落ち込んだり ・・・・

もっとリラックスしよう、

もっとシンプルに生きよう、

たまには馬鹿になったり、無鉄砲な事をして、

人生に潤いや活気、情熱や楽しさを取り戻そう。

人生は完璧にはいかない、だからこそ、生きがいがある。

 

この詩を、365日一日中仕事をする私の父親に贈った。

父親は「俺はまだそんなになれん!!」といったその数年後、この世をあっけなく去った。