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今月のメッセージ

今月のメッセージ

Monthly Message

ひぐちグループ 代表取締役社長

樋口 益次郎

寄道小径2023年2月

『身近なことから』

 

 1981年9月、ニューヨークのセントラルパークで53万人を集める伝説のフリーコンサートが開催された。
この日のために再結成されたサイモンとガーファンクルがNY市財政難援助の為のコンサートを行ったのであった。
サイモンとガーファンクルと言えば『スカボロー・フェア』などでの反戦をテーマとした歌詞やアレンジが散見される。
前年の12月にはセントラルパーク側のダコタハウスでジョン・レノンが銃弾に倒れたこともあり、
この時もコンサート中に男の乱入で一瞬の緊張感が走ったが、暗殺などの社会問題を歌にし、
社会現象も起こすほどのデュオのコンサートであった。
それも当時はフリーコンサート開催が決まるや、
アメリカ全土にニュースで大きく取り上げられるものであった。

 残念なことにそのコンサートを観ることはできなかったが、たまたま次の日にこの会場に行くことが出来た。
しかし、残念にもそこはとんでもないごみの山であった。53万人も集まると仕方ないのであろうが、
戦争反対や自由と正義を声高らかに叫ぶ人たちの一面を見てショックを受けた記憶がある。

 そのような経験もあってか、日遊協(日本遊技関連事業協会)で始めた地域清掃活動のクリーン・デイは、
単なる地域貢献としての活動だけが目的でなく、大人たちが何気なくやる日常のごみ拾いの姿

それを目にした
子供たちの習慣となる事が、戦争反対で練り歩く姿より身近な存在として小さく積み重なり、
やがて大きな目的
を果たすものとして、スタートさせていただいたのである。

 身だしなみも同じなのかもしれないが、若い時にこのようなことがあった。
私が入社したての若造のころ、ある銀行の役員の方にご挨拶に伺った時のこと。名刺交換後にその方が

「益次郎君、
私はね、名刺交換の時頭を下げるでしょ。
そのとき相手の靴を観るんですよ。
靴を観ると解るんですよ、その人が」
と悪戯っぽく微笑んだのを、印象深く憶えている。

 あれから30年近く経ち、これらの印象も大きく変わったようである。
最近の衝撃的なニュースで『回転寿司チェーン店でのペロペロ事件』がある。
男子高校生が店内に常設してある醤油瓶を舐め、コップをはじめ、回っている寿司に唾を付ける動画がYouTubeで拡散された。
パティシエの鎧塚氏が自身のFacebookで綴った
「この行為が日本の飲食業界の多大なる努力の結晶と、お客様の良心的な姿勢で
成り立っている事を踏みにじるもので、切にやめて頂きたい」
とのコメントは胸を打つものでした。

 このコロナ禍でどれ程飲食店が苦しみ、閉店を余儀なくされたか。
今までも水面下では少なからずあっていたのでしょうが、当事者ばかりかこれを撮影しYouTubeにアップする事自体、
事件内容以上に日本人のモラルの低さに落胆してしまうものでした。

 また、フィリピンからの指示で行われたと考えられる強奪殺人事件は高額闇バイトがスタートで、
一般の人が殺人まで犯してしまうという日本中を震撼させる特異な事件であるが、
スタートは気軽で手っ取り早いバイトから起こった殺人。
いま日本が直面している問題は、モラルの低さだけでは片づけられない大きな何かが横たわっているのかもしれません。

 一人ひとりがこのようなことに振り回されず、落胆せずに、
身近な足元の靴からでも手入れをして品格を作っていくことが、
今一番大切なことなのかもしれませんね。